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東京高等裁判所 昭和59年(行コ)3号 判決 1984年11月29日

控訴人(第一審原告) 富里商事株式会社

右代表者代表取締役 ジョン・エフ・ホーン

右訴訟代理人弁護士 成富安信

同 青木俊文

同 田中等

同 中山慈夫

被控訴人(第一審被告) 中央労働委員会

右代表者会長 石川吉右衛門

右指定代理人 堀秀夫

<ほか四名>

被控訴人(第一審参加人) ノースウエスト航空日本支社労働組合

右代表者中央執行委員長 松岡民生

右訴訟代理人弁護士 山本政明

同 勝山勝弘

同 安原幸彦

主文

一  原判決を次のとおり変更する。

1  被控訴人中央労働委員会が中労委昭和五六年(不再)第四号事件について昭和五七年六月一六日付けでした命令中、別紙第一目録記載の再審査被申立人らに関する部分を取り消す。

2  前項の命令中、別紙第二目録記載の再審査被申立人らに関する部分にかかる請求につき、本件訴えを却下する。

3  控訴人のその余の請求を棄却する。

二  訴訟費用は第一、二審とも控訴人の負担とする。

事実

一  控訴人代理人は「原判決を取り消す。被控訴人中央労働委員会が中労委昭和五六年(不再)第四号事件について昭和五七年六月一六日付けでした命令を取り消す。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。」との判決を求め、被控訴人らの各代理人はそれぞれ控訴棄却の判決を求めた。

二  当事者双方の主張は、次に付加するほか、原判決の事実摘示と同じであるから、これを引用する。

1  (当審における控訴人の主張)

中労委昭和五六年(不再)第四号事件の再審査被申立人らのうち、別紙第一目録及び同第二目録記載の合計一三名の者は、それぞれ右各目録記載の日に控訴会社を任意退職し、同時に被控訴組合の組合員たる地位を失った。

右事実によれば、少くとも本件命令中の右再審査被申立人らに関する部分は違法であって、取消を免れない。

2  (被控訴人らの認否)

控訴人の当審における右主張事実自体は認めるが、右主張事実は本件命令の全部又は一部を違法たらしめる事由には該当しない。

三  《証拠関係省略》

理由

一  《証拠省略》によれば、本件命令中の別紙第一目録及び同第二目録記載の再審査被申立人らに関する部分は、同人らが被控訴会社の従業員であり、かつ被控訴組合の組合員であるとの事実を前提とした不当労働行為救済命令の申立(以下「本件救済命令申立」という。)に対し、その前提事実を認定のうえ、右申立に対応するものとして、昭和五七年六月一六日付で発せられたもの(右発令の日は当事者間に争いがない。)であることが明らかである。

1  しかるに、実際には、前記第一目録記載の再審査申立人らが本件命令発令前の同目録記載の日にそれぞれ控訴会社を任意退職し、同時に被控訴組合の組合員たる地位を失っていたことは当事者間に争いがない。そうとすると、控訴会社の不当労働行為に関する右再審査被申立人らの本件救済命令申立は、同申立の趣旨にかんがみ、同人らが控訴会社を退職し、かつ、被控訴組合の組合員たる地位を喪失したことにより、当該申立にかかる救済の利益が消滅したものとして、却下されるべきであったといわざるを得ない。したがって、本件命令中の右再審査被申立人らに関する部分には、この点を看過した違法(瑕疵)があるので、取消を免れないものというべきである。

2  次に、前記第二目録記載の再審査被申立人らがそれぞれ本件命令発令後の同目録記載の日に、控訴会社を任意退職し、かつ、被控訴組合の組合員たる地位を失ったことも当事者間に争いがないが、このような本件命令発令の後に生じた事情の変更は、本件命令を違法たらしめる事由には該当しないものといわなければならない。しかしながら、本件命令の趣旨・内容にかんがみ、本件命令中の右再審査被申立人らに関する部分は、右事情の変更により、その基礎を欠くに至り、控訴会社に対する拘束力(効力)を失ったもの(失効)というべきであるから、控訴会社には、もはや、これを取り消すことによって回復されるべき実質的利益がなく、したがって、本件命令中の当該部分についての控訴人の請求は、訴えの利益を欠くものとして却下されるべきものである。

二  控訴人の本訴請求中、叙上説示の点を除くその余の部分については、当裁判所も、本件全資料を検討した結果、原判決と同じ理由により、控訴人の請求は理由がないから棄却を免れないものと判断するものであって、原判決理由(原判決一〇丁表二行目から同二二丁表末行「これを棄却し」まで。なお、右「これを棄却し」を「これを棄却すべきものである。」と訂正する。)をここに引用する。

三  以上の次第で、本件命令の取消を求める控訴人の本訴請求中、前記第一目録記載の再審査被申立人らに関する部分は理由があり、認容すべきであるが、同第二目録記載の再審査被申立人らに関する部分は訴えの利益を欠くものとして訴えの却下を免れず、その余の部分は理由がなく、棄却すべきものである。そこで、右請求を全部棄却した原判決を右の趣旨に変更することとし、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法七条、民訴法九六条、八九条、九二条但書を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 後藤静思 裁判官 奥平守男 尾方滋)

<以下省略>

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